建築 -> 音響導出
1. (復習)Poissonの式の導出
断熱変化時の保存式を求める。変化前と変化後の状態方程式はそれぞれ、
$ PV=nRT
$ (P+dP)(V+dV)=nR(T+dT)
辺々引いて微小量の2乗項を省略すると
$ VdP+PdV=nRdT (1)
断熱変化よりdQ=0。よって、熱力学第一法則の微分形より
$ 0=dW+dU=PdV+nC_vdT (2)
(1)(2)からdTを消去し、
$ VdP+PdV=-R\frac{PdV}{C_v}
$ VdP+(1+\frac{R}{C_v})PdV=0
$ VdP+γPdV=0
$ \therefore \frac{dP}{P}=-γ\frac{dV}{V}
(ただし、ここで比熱比:$ γ=\frac{C_p}{C_v}=\frac{C_v+R}{C_v}とおいた。)
両辺積分して、
$ \int\frac{dP}{P}=-γ\int\frac{dV}{V}
$ \ln P=-γ\ln V
$ \ln P+γ\ln V=0
$ PV^γ=Const.\ \ _\blacksquare(Poissonの式)
2. 体積弾性率
Poissonの式より、断熱変化時に以下の式が成り立つ(ここではP0を大気圧、Pを音圧と考える)。
$ P_0V_0^γ=(P_0+P)(V_0+V)^γ
$ 1+\frac{P}{P_0}=(1+\frac{V}{V_0})^{-γ}
右辺をV/V0でTaylor展開する。V/V0<<1とし、微小量の2乗項を省略すると
$ 1+\frac{P}{P_0}=1-γ\frac{V}{V_0}
$ \therefore P=-γP_0\frac{V}{V_0}
ここで、体積弾性率:$ K=γP_0とおけば、以下の式が導かれる。
$ P=-K\frac{V}{V_0}(3)
3. 一次元波動方程式の導出
粒子変位:u、粒子速度:v、断面積:S、音圧:p、密度:ρとして、長さdxの微小要素におけるつり合いを考える。
力のつり合いより、運動方程式は
$ ρSdx\frac{∂v}{∂t}=Sp-(Sp+S\frac{∂p}{∂x}dx)
$ ρ\frac{∂v}{∂t}=-\frac{∂p}{∂x}(4)
一方(3)式より、
$ p=K\frac{d}{dV}S\{(u+\frac{∂u}{∂x}dx)-u\}=K\frac{d}{dx}\{(u+\frac{∂u}{∂x}dx)-u\}
$ \frac{∂v}{∂x}=-\frac{1}{K}\frac{∂p}{∂t}(5) (連続の式)
ただし、ここで$ v=\frac{∂u}{∂t}を用いた。
(4)(5)より、波動方程式
$ \frac{∂^2v}{∂x^2}=\frac{1}{c^2}\frac{∂^2v}{∂t^2},\ \ \frac{∂^2p}{∂x^2}=\frac{1}{c^2}\frac{∂^2p}{∂t^2}ただし$ c=\sqrt{\frac{K}{ρ}}
が導かれる。$ _\blacksquare
なお、ここで音速について
$ c=\sqrt{\frac{K}{ρ}}=\sqrt{γP_0\frac{RT}{P_0}}=\sqrt{γRT}
より、物性値と温度のみに依存する値であることが確認できる。
補足:三次元の場合も同様の計算を行うことで、三次元波動方程式$ (\nabla^2-\frac{1}{c^2}\frac{∂^2}{∂t^2})p=0が得られる。
4. 一方向に進む波の特性
一次波動方程式をpについて解くと、以下の解が得られる。
$ p=p_1+p_2
$ p_1=A\sin(ωt-kx)
$ p_2=B\sin(ωt+kx)ただし$ k=\frac{ω}{c}(波数)
ただし、A・Bは任意定数。
また、粒子速度については以下の式が成り立つ。
$ v=v_1-v_2
$ v_1=\frac{A}{ρc}\sin(ωt-kx)
$ v_2=\frac{B}{ρc}\sin(ωt+kx)
p1およびp2はそれぞれ正・負の方向の波を表しているから、一方向に進む波について適切な座標を取ることで、p2=v2=0とすることができる。
このときの音響インピーダンス(固有音響インピーダンス)zcについて、$ z_c=\frac{p}{v}=ρcが成り立つ。
よって、単位面積あたり1秒あたり通過エネルギーである音響インテンシティについては
$ I=pv=\frac{p^2}{ρc}が、
単位体積あたりエネルギーである音響エネルギー密度については
$ E=\frac Ic=\frac {p^2} {ρc^2}が、それぞれ成り立つ。
音圧レベル・エネルギー密度レベル・音響インテンシティレベルは次のように定義される。
$ L_p=10\log\frac{p^2}{p_0^2}, L_E=10\log\frac{E}{E_0}, L_I=10\log\frac{I}{I_0}
p0・E0・I0を調整することで、一方向に進む音波についてこれらの値が等しくなることは、上の議論から容易に分かる。
5. 固有周波数
剛壁に覆われた室での固有周波数を考える。
一次元では、境界条件v(0)=v(L)=0より、定常波について$ n\frac{λ}{2}=Lが成り立つ。
$ c=fλより、$ f=\frac{nc}{2L}
三次元については、まずHelmholtz方程式を用意する必要がある。
そこで、pのtに関するFourier変換Pを次のように定義する。
$ P(\bm x,ω)=\mathcal F_t\{p(\bm x,t)\}=\int_{-∞}^∞p(\bm x,t)e^{jωt}dt
Fourier変換により、Helmholtz方程式が得られる。
$ (\nabla^2+k)P(\bm r,ω)=0
このHelmholtz方程式について、有限要素法で固有値を求める。
$ I=\oint\!\!\!\!\!\int q_in_iδPds-\int\!\!\!\!\!\int\!\!\!\!\!\int \frac{∂P}{∂x_i}\frac{∂δP}{∂x_i}dV+\int\!\!\!\!\!\int\!\!\!\!\!\intα^2PδPdV
要素を使って未知数Pを近似すると、
$ I=\{δP\}^T\{q\}-\{δP\}^T\int\!\!\!\!\!\int\!\!\!\!\!\int [B\rbrack^T[B\rbrack dV\{P\}+\{δP\}^Tα^2\int\!\!\!\!\!\int\!\!\!\!\!\int[N\rbrack^T[N\rbrack dV\{P\}
重みづけ残差法に従い、IをδPで微分し∂I/∂{δP}^T=0とおくと、
$ \int\!\!\!\!\!\int\!\!\!\!\!\int [B\rbrack^T[B\rbrack dV\{P\}-α^2\int\!\!\!\!\!\int\!\!\!\!\!\int[N\rbrack^T[N\rbrack dV\{P\}=\{q\}
この式を全ての要素に対して計算し、グローバルマトリックスに足し込むと、
$ [[K\rbrack-α^2[M\rbrack\rbrack \{P\}=\{q\}
剛壁において圧力波は完全反射するから、Neumann境界条件より{q}={0}。よって、
$ [[K\rbrack-α^2[M\rbrack\rbrack \{P\}=0
ここで{P}≠{0}より、
$ |[K\rbrack-α^2[M\rbrack|=0が成り立つ。
この式の固有値は以下の式で求められる(固有値の導出は省略する)。
$ α^2=π^2\left\{ \left( \frac{l}{L_x} \right)^2+\left( \frac{m}{L_y} \right)^2+\left( \frac{n}{L_z} \right)^2 \right\}
これより、固有周波数について以下の式が求まる。
$ f=\frac{c}{2}\sqrt{\left( \frac{l}{L_x} \right)^2+\left( \frac{m}{L_y} \right)^2+\left( \frac{n}{L_z} \right)^2}
また、音圧について以下の式が求まる。
$ p=AF\sinωt
ただし、$ F=\cos\frac{n_xπx}{l_x}\cos\frac{n_yπx}{l_y}\cos\frac{n_zπx}{l_z}(固有モード)
6. Sabineの残響式・Eyringの残響式
(1)微小容積dVから拡散する音場のエネルギー密度をEとすると、壁面の⊿Sへのエネルギー入射量dI⊿Sについて、
$ dI⊿S=EdV\frac{⊿S\cosθ}{4πr^2}
よって、1秒間に入射するエネルギーI⊿Sについては、以下の式が成り立つ。
$ I⊿S=\int dI⊿S=\int EdV\frac{⊿S\cosθ}{4πr^2}=\int_0^{2π}\int_0^{π/2}\int_0^cdrdθdφ\frac{E⊿S\cosθ}{4πr^2}r^2\sinθ=cE⊿S
つまり、拡散音場については
$ I=cE/4
これより、表面積:S 容積:V 音源出力:P 吸音率:αの室において、次式が成り立つ。
$ V\frac{dE}{dt}=P-\frac{cEA}{4}ただし、$ A=S\bar α(等価吸音面積)
t=t0においてP=0になったとする。このとき上式を解くと、
$ \ \ln E-\ln E_0\ =-\frac{cA}{4V}(t-t_0)
$ \therefore \frac{E}{E_0}=\exp\{-\frac{cA}{4V}(t-t_0)\}
ここにE/E0=10^-6を代入することで、Sabineの残響式が導かれる。
$ T_{60}=0.16\frac{V}{A}\ \ _\blacksquare
(2)反射音についてより詳しく考察する。
反射から次の反射までの伝搬距離の平均値を平均自由行路:pとすると、
反射と反射の間に出力:Pの音源から発生するエネルギーは$ P\cdot p/cとなる。
また、n回目の反射音で同期間に発生するエネルギーは$ P\cdot (1-\barα)^n\cdot p/cである。
よって、n回反射までの室内の音響エネルギー密度:Enについて、以下の式が成り立つ。
$ E_n=\frac{pP}{cV}\{1+\sum_{m=1}^n(1-\barα)^m\}=\frac{pP}{cV\barα}\{1-(1-\barα)^n\}(6)
定常状態のエネルギー密度はn→∞として
$ E_0=\frac{pP}{cV\barα}(7)
一方Sabineの理論での定常状態では、エネルギーの収支が等しいため
$ P=\frac{cE_0S\barα}{4}より$ E_0=\frac{4P}{cS\barα}
これらが一致するため、$ p=4V/S(8)
ここで、P=0になってからt秒後のEについて、
(6)(7)より$ E=E_0-E_n=E_0(1-\barα)^n、
(8)より$ n=\frac{ct}{p}=\frac{cSt}{4V}が成り立つ。
これらにE/E0=10^-6を代入して整理すると、Eryingの残響式が導かれる。
$ T_{60}=\frac{0.16V}{-S\ln(1-\barα)}\ \ _\blacksquare
Eryingの残響式は平均吸音率が大きいときに実験値とよく一致する。
7. 室内の音圧分布
室での直接音の音響エネルギー密度:Edは、E=I/cより
$ E_d=\frac{QP}{4πr^2c}
一方、室での拡散音エネルギー密度をEsとする。
拡散音エネルギーは、一秒間に1回目の反射波からP(1-α)供給され、反射によってEsVα・p消費される。
よって、$ P(1-\barα)=E_sV\barα\frac{cS}{4V}
$ \therefore E_s=\frac{4P}{C}\frac{(1-\barα)}{\barαS}
以上より、
$ E=\frac{P}{c}\left(\frac{Q}{4πr^2}+\frac{4}{R}\right)ただし$ R=\frac{\barαS}{1-\barα}(室定数)
音響パワーレベルを$ L_W=10\log\frac{P}{P_0}と定義することで、音圧レベルは以下のように記述できる。
$ L_p=L_W+10\log\left(\frac{Q}{4πr^2}+\frac{4}{R}\right)
参考文献:
田中俊六ほか 「最新建築環境工学 改訂3版」
猿渡・小山研究室 「応用音響学 第7回 音波の伝播」
ONOSOKKI 「計測コラム emm108号用/emm109号用」
「Sound Eigenvalue | Three Dimensional Finite Element Method」
理系ラボ 「断熱変化とポアソンの法則(導出)」
「1.2 波動方程式」